捻くれ肴

2001年8月12日生まれ 女性

文明

 文明の光に包まれながら、私は日々、五感が薄れていく感覚に囚われている。スマートフォンの冷たい画面を通して世界を見つめ、キーボードの無機質な音で言葉を繋ぎ、イヤホンから流れる人工の音に耳を預ける。

 

 便利さは確かにここにある。瞬く間に情報が手に入り、離れた者とも容易に繋がる。しかし、その陰で、私の感覚は鈍り、色あせた現実が広がっていく。

 

 目はスマホの画面に縛られ、風景の奥行きを失う。手で触れるものは冷たく無機質で、肌が覚えていた温もりを忘れてしまう。耳に届くのは、どこか遠くで生まれた音ばかりで、風が奏でる音や鳥のさえずりは、どこか遠い存在になってしまった。街の人工的なにおいに慣れすぎた鼻は、自然の香りを捕らえる力を失い、味覚もまた、インスタントの味に覆われ、本物の味を識別することが難しくなっている。

 

 それでも、私はまだこの衰えを感じている。自分の感覚が鈍っていることに気づけるという事実が、唯一の救いかもしれない。完全に失われたわけではない。まだ、微かに残る感覚のかけらが、私に警告を発している。

 

 だからこそ、私は意識的に五感を取り戻そうとする。自然の中で過ごす時間を増やし、裸足で芝生を歩き、花の香りを深く吸い込み、新鮮な食材を味わう。そして、風の音や木々の囁きに耳を傾ける。その一つひとつが、私の中で眠りかけた感覚を少しずつ蘇らせるのではないか。

 

 文明の中で生きることは避けられない。だが、その恩恵に飲み込まれることなく、感覚の衰えを自覚することこそが、私にとっての希望だ。それは、自分自身を見失わずに生きていくための指針となり、私が今ここにいることを確かなものにしてくれる。