捻くれ肴

2001年8月12日生まれ 女性

不審者

 昔、桜が満開の公園で遊んでいた時、酔っ払った一人のおじさんが私に近寄ってきた。住所を訊ねられ、当時小学生だった私は戸惑ったが、一緒にいた女の子はあっさりと私の住んでいるマンションを教えてしまった。慌てた私は「それ以上言わないで」と彼女を止めたが、もう遅かった。

 

 事態は私の予想を超えた形で進行していった。どのようにしてその情報が伝わったのかは覚えていないが、学校全体に不審者情報としてその出来事が広まり、プリントに記載されて各家庭に配布されるまでに至った。私が公園で遭遇した酔っ払いのおじさんの話が、職員室の先生たちとそのプリンターを通じて、学校全体を巻き込む事態へと発展してしまった。

 

 その時の私の気持ちは、複雑極まりなかった。軽率に住所を伝えた女の子への不信感が募る一方で、学校全体にそのことが広まってしまったことへの恥ずかしさと戸惑いが入り混じっていた。なんで気まぐれで花見なんて行ったんだろうと、ひどく後悔したことを今でも鮮明に覚えている。

 

 学校としては、生徒の安全を最優先に考えた上での対応だったのだろう。しかし、私にとっては居ても立っても居られない、どうしようもない状況だった。不審者として扱われたおじさんが本当に危険な人物だったのかどうかは、未だに分からない。しかし、自分の小さな行動がこんなにも大きな影響を引き起こすことになるとは、当時の私は夢にも思っていなかった。

 

 それ以来、私の中にあった人に対する警戒心は何倍にも膨れ上がった。そして、自分の行動には責任が伴うという意識が強く芽生えることとなった。今でも、その出来事を思い出すと、冷や汗が出る。