かれこれ1週間、車内に羽虫が居ついている。走行中、そいつはフロントガラスをめがけてパタパタと飛び回る。停めた時に外に放そうと試みるが、その瞬間に限って何処かに隠れてしまい、姿を見せない。再び走り出すと、またもやフロントガラスでパタパタと飛び回る。この繰り返しに、私はふと考える。もしかして、わざとこうしているのか?
そもそも、この羽虫はどうやって生き延びているんだ。車内に食べ物などないはずだ。私がだらしなくしているせいで、餌になるようなゴミでも落としてしまったのだろうか。それとも、どこかから微細な食べかすや、水分や、人間が認識できない小さな虫を見つけ出しているのか。こいつの生命力には驚かされる。
この羽虫の存在は、なんとなく不思議な気分にさせる。私がどこかへ移動しようとするたびに、その小さな命が車内で生き延びていることを意識する。自分の生活空間に居候するこの羽虫は、私にとって一種の同居人のような存在になりつつあるのかもしれない。
だが、やはり外に出してやるべきだと思う。自然の中で自由に飛び回る方が、羽虫にとっても幸せだろう。それなのに、走り出すとすぐに姿を見せ、停まると消える。このいたちごっこは、何か象徴的な意味を持っているのだろうか。私の生活の中で、見え隠れする問題や解決しきれない課題のように。考えすぎか。
目の前にあるけれども手が届かないもの、不意に姿を消すけれども確実に存在するもの。そんな存在が、私の車内でパタパタと羽ばたいている。
この羽虫との奇妙な共存関係は、私の日常に小さな不思議を与えている。走行中にフロントガラスでパタパタと舞う羽虫は、私にとって一種の思考のきっかけとなる。